初めて色になる

音楽、特撮、雑記

仮面ライダービルドは最終話で最高傑作となった

正直、今まであまりビルドのことが好きじゃなかった。それは8月26日の午前9時に覆された。あまり軽々しく「エモい」という言葉を使いたくないのだけれど、仮面ライダービルドの最終話である第49話及びそれを踏まえた上でのビルドという物語を表現するには、「エモい」以外の言葉が思いつかない。


以下、感想をぐだぐだと。ネタバレどっさり。
特撮初心者なので着目点がおかしい箇所もあるかと思いますが見逃してください。。。


けっこう長い間、ビルドを見たくない時期があった。
最初は何故見たくないのか自分でもわからなくて、「話の展開がいつも同じだから」「エボルトを倒せる気がしないから」などという理由だと思っていたけれど、今思うと「毎回戦兎に感情移入してしまって辛くなるから」が最もたる理由だと思う。
まだ見ていないシリーズもたくさんあるけれど、曇り顔のカットの多さは平成二期でトップなんじゃないだろうか。

戦兎が毎回曇る中で、戦闘を続ける中で増えていく仲間たちの存在と、主題歌「Be The One」の良さがビルドを見続けた理由となった。最初は「カッコイイ」よりも「爽やか」に全ステータスを振ったような主題歌に違和感を感じていたけれど、私にとって伝説となった「平成ジェネレーションズFINAL」作中の万丈の問いである「ヒーローとは何のためにいるのか?」への完璧な模範的回答であることに気付いて、大好きな曲となった。
中でも二番の「現代を生きよう そして忘れない 奇跡と偶然 太陽と月」という歌詞が大好きだった。「太陽と月」は戦兎と万丈のことを表しているんだろうなと思っていたし、私の期待通り夏映画では金と銀のクローズビルドに変身してくれた。戦兎が曇っているところに万丈が駆けつけて戦兎が立ち上がるという構図を少ししつこすぎるくらい描写していくのは、二人の絆が創り上げられていく様を見せたいからなんだろうなーと思っていたし、最終話の伏線となってくれることだけを楽しみに視聴を続けてきた。

そんな私の予想の斜め上を行き過ぎた最終話だった。私の予想では、万丈の存在は消えて、いつかまた万丈に会える日を信じて、創り上げた仲間たちと共にヒーローであり続ける……というオーズ的なラストだと思ってた。それがまさか、共に闘ってきた一海と幻徳が最終話前の二話で死亡して、消えるのは戦兎と万丈以外のみんなの記憶であって、戦兎と万丈の記憶の中でしかヒーローが存在しないことになるなんて……。誰も自分のことを覚えていない世界の中、「ビルド」を一緒に創った美空が覚えているかの素振りで期待させた上で裏切って、もう今までで一番の曇り顔になってしまった戦兎の前に、自分のことを覚えていてくれたただ一人の存在である万丈が現れる。
49話分じっくりかけて創り上げた二人の絆を最大限に表現できて、きれいに締め括ることができるラスト、これ以外に無い。


このラストが自分の好みどストライクで、ビルドのおかげで自分が「メリーバッドエンドが好き」であることが判明した。
Twitterで感想を見ても、ハッピーエンドか否か受け取り手によって様々でとても面白い。
市民を守るために戦ってきたのに誰も覚えていないどころか、かけがえのない仲間となった美空や一海、幻徳たちが誰も戦兎のことを覚えていないという時点では、視聴者から見てこの話は完全にバッドエンドだった。
けれど、何度も自己を犠牲にしてきた戦兎にとっては、みんなが生きているだけでハッピーエンドだったんじゃないかと思う。手強い敵という存在から頼れる仲間となった猿渡一海や、様々な苦難を乗り越えて正義のヒーローとなった氷室幻徳が死亡する回は本当に辛かった。二人とも死亡するまでの過程で、仲間や父親の死を乗り越えて苦しみながらも闘っていた。
本作のヒロインである美空も、普通の女の子ではない19年間を送ってきた。戦争が起こったのは自分のせいだと丘の上で泣くシーンは本当に苦しかったし、仲間である戦兎を自らの手で消すこととなるスイッチを本人から手渡されたり、ラストバトルでは本当は戦兎に戦ってほしくないのに、笑顔で見送るところ(たぶん、もう戦兎に会えないような予感がしていたんじゃないかなーと思うんだよね……)は何度見てももらい泣きする。
そんな苦しみを味わうことなく、新世界ではみんな平凡な日常を過ごしている。美空も普通の女の子として生きていられる。みんながどれだけ悲惨な状況を味わってきたか知っているからこそ、失ったはずの仲間や家族と平凡な日常を過ごしているかつての仲間たちの存在が戦兎にとってのハッピーエンドとなる。たとえ自分の存在が忘れ去られてしまっていたとしても。正義のヒーローを気取る桐生戦兎は少し寂しく思いながらも、「これで良かったんだ」とクシャッと笑うだろう。
しかし戦兎が良くても視聴者は辛いわけで。万丈が残ってくれていたのは、もはや戦兎よりも視聴者のための救済だったんじゃないかなーと思う……。万丈が現れて「Be The One」が流れるの、本当にニクい演出。めちゃくちゃ嬉しいだろうに、喜びを「最高だ」の一言だけで表現するの、めっちゃビルドらしくて良いよね。

逆にみんな記憶残ってるし亡くなった人も生き返るみたいな超ハッピーエンドだったら、ビルドはここまで最高傑作にならなかったと思う。今回の手法を他作品に利用するとして、例えばWだったらフィリップは消えたままで翔太郎はジョーカーとして風都を守り続ける、みたいなラストになるけれど、多くの犠牲者が生まれたビルドでこの手法を採用したからこそ、メリーバッドエンドという手法が生かされる。オーズのアンクが消えてしまうラストもめちゃくちゃ好きだったし、私本当にこういう展開好きなんだな……。

もうひとつビルドで苦手だったところ。展開はめちゃくちゃ不穏なのに、謎のテンションの高さであるあらすじが苦手だった。
最終話のラストシーンでは「一本取られた……」という感想しか出てこなかった。みんなが戦わず、誰も死ぬことのなくなった結末を知っているからこそ、あのテンションで二人は自分の記憶を語ることができる。途中から美空やマスターなどの仲間達が参加していくから、二人が後から録音しましたというオチは矛盾しているのでは、という声もあったけれど、ひょっとしたら新世界でみんなとまた仲良くなるのかもしれない、美空が本当は記憶の片隅で戦兎のことを覚えていて、それはみんな同じなのかもしれない、などという妄想をすることができる。二人が創ったストーリーが今回自分たちが見てきた「仮面ライダービルド」なのかもしれないし、今自分が生きている世界は二人が救ってくれた世界なのかもしれない。こういう「あとは受け取る側で想像してください」ってラスト、めちゃくちゃ大好物……。

ちなみに、戦兎と一緒に闘った仲間達が違う10年を過ごしていたことを表現するくだり、内海が鉄パイプ折ろうとするのはやりすぎなのではといった声があるみたいだけれど、「もうサイボーグではない生身の人間であることを証明するために鉄パイプも折れないし痛みも感じている」説を私は推します。内海がサイボーグになったことも知っていたから、事前のあらすじでサイボーグ内海って紹介してたんだな。

ビルドを完走したことで、仮面ライダーはリアルタイムで見ることが最高の楽しみ方だと思った。
今まで見てきたシリーズはどれも面白かったし、「見て良かった!」と思える作品ばかりだったけれど、シリーズを視聴し始める前にはどんなストーリーなのか大体理解してからでないと興味を持てず、どうしてもどこかのネタバレを食らってしまいがちだった。ビルドをリアルタイムで見る中で、次回放映まで一週待たなければいけないもどかしさと(7月29日から8月12日まで待つのは本当に辛かった)、これからの展開を想像したり色んな人の考察を読む楽しみ方を知った。意外な展開が来た時の衝撃を知った(一番衝撃が走ったのは最終話だったけれど……)。
今回初めてシリーズ全話をリアルタイムで追えて完走したことで、本当に仮面ライダーにハマることができたと痛感した。


散々語ったけれど一言でまとめるならば、ビルドは最終話まで見た途端に最高傑作となる。中盤のグダりは否めないけれど、そのおかげで最終話の良さが引き立ってくれるから、とりあえずみんな東映ファンクラブ入って一気見して。戦兎が頼りないだのみんな自己犠牲好きすぎだの色々文句出てくると思うけど、文句言いながらで良いから一気見して。